speranza

デジモンタケヒカ二次小説
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cup 電話の向こう側

2018.12.11 Tue

「ん……」

 夢の向こう、ふと何かが終わり目を開ける。
 暗くしんとした部屋。冷たい空気が静けさを際立たせる。
 枕元の時計を引き寄せると、起きるのにはまだ早いと教えてくれる。
 もう一度夢の中に戻ろうかどうしようかと考えながら、なんとなく携帯電話に手を伸ばした。
 寝ている間にメールが来ている。タケルくんだ。内容は何でもないことだけど、起きてすぐにタケルくんからの連絡があったことが嬉しい。
 いそいそと携帯を操作し、メールを返したところで、起こしてしまったかもしれないと気がついた。
 気がついたところでもうどうにも出来ないから、あとで謝ろうと心に決める。すると、ディスプレイが光り、タケルくんからの着信を知らせた。

「おはよう。ごめん、起こしちゃった?」
「いや、ちょうど起きたとこだった」

 その割には声はとても眠そうなのが可愛い。

「今日、帰ってくるんだよね」
「うん。そのつもり。仕事も順調に進んでるから夜には帰れると思うよ」

 嬉しい。寝ぼけた声も、電話の向こうに浮かぶ微笑んでいる顔も、タケルくんがようやく帰ってくることも。

「待ってる。今日の夜ご飯は何がいい?」
「んー、そうだなぁ……」

 あれもいいし、これもいいしなと色々なメニューを出しては決めかねて悩んでる。
 久々に帰ってくるタケルくんのために、全部作って待ってたら喜ぶかな?

「……よし、決めた!」
「何にする?」
「ヒカリちゃん!」
「へっ?」
「帰ったらまずヒカリちゃんを食べる! しばらくしてないからヒカリちゃんを沢山食べたい!」

一瞬で自分の顔が赤くなったのがわかる。

「朝から何言ってるの!」
「だって、ヒカリちゃんが食べたいもの聞いたんじゃん」
「食べたいものってそういう意味じゃ……」
「とにかく、もう決めたから! 帰ったら一番にヒカリちゃんを食べる! 飢えて飢えて仕方ないから覚悟しといてね」
「もう!」

 話している間に目が醒めてきたのか、タケルくんの口調がいつものものに戻ってくる。そのことは嬉しいけれど、私は翻弄されぱなっしだ。

「早く会いたいよ」
「……私も」

 軽口の中に、こうやって本音を混ぜてくるのがずるいと思う。不意に漏らされるタケルくんの言葉に、私の心は鷲掴みされて離れられなくなる。
 好きだな。携帯電話から聞こえるタケルくんの声に自分の思いを再確認しながら相槌を打っていると、あっという間に時間は過ぎ、もう起きなければいけないと時計が告げる。

「あぁ、もうこんな時間か。そろそろ起きないとね」

 目覚しのベルの音は向こう側まで届いてしまい、時間を確認しただろうタケルくんが残念そうな声をあげる。
 寂しい。楽しい時間の終わりが近づいてることが寂しいけど、朝は待ってくれない。口に出してはダメ。タケルくんを困らせてしまう。
 電話の向こうには悟られないよう、明るい声で答える。

「そうだね。そろそろ起きなきゃね」

 窓の外はいつの間にか明るい。朝がきたことは憎らしいけど、夜になればタケルくんが帰ってくるのだ。少しの間、我慢すればいい。

「じゃあ、タケルくん、また……」
「愛してる」

 思い切って通話を切ろうとした瞬間、タケルくんの声が聞こえる。

「寂しい思いをさせてごめん。愛してる、ヒカリちゃんだけを愛してる!」

 ぽろりと涙がこぼれ落ちる。どうして、この人は私が一番欲しい言葉をわかるのだろう。
 タケルくんが側にいないここ数日、心細くて不安で仕方なかった。タケルくんはマメに連絡をくれるけど、寂しさが連れてきた不安は愛されてる自信さえも奪ってじわじわと広がり、私を汚染していった。
 仕事で出張してるタケルくんにそんなことを言っても困らせるだけ。弱い自分に負けないよう言い聞かせ我慢して、何でもないと強がってみせてたのに、どうしてタケルくんにはわかってしまうのだろう。

「早くっ、帰ってきてね」

 そんなこと言っちゃダメだと思うのに、本音が思わず口をついてしまう。涙声だし、タケルくんを心配させちゃうと思うのに、思いが溢れて止まらない。

「うん……うんっ! すぐ帰るから、終わったらまっすぐにヒカリちゃんのもとへ帰るから」

 早く会いたい。タケルくんに会いたい。
 タケルくんの言葉通り、帰ってきたらまずタケルくんに私を食べてもらおう。タケルくんは私を蝕む寂しさを全部埋めてくれるはず。
 そうしたら愛を語ろう。離れていてどれだけ寂しかったか。その間どれだけタケルくんを想っていたか全部話そう。
 恥ずかしいけど全部素直にさらけ出そう。
 きっとタケルくんはどんな私でも受け止めてくれるから――