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デジモンタケヒカ二次小説
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cup 僕の存在意義

2018.11.28 Wed

 ずっと守るって決めた。
 僕が太一さんから託されたあの日から。


 幼い頃、ヒカリちゃんをピエモンから守りきったとき、ヒカリちゃんは真っ直ぐに僕を見つめ、その瞳には確かな信頼があった。
 今まで守られるばかりだった僕には、その信頼がとても嬉しく、弱い自分を克服する自信になった。
 ヒカリちゃんを守れる僕になる。
 それを目標に、デジタルワールドから帰った後、僕は人が変わったように勉強も運動も頑張った。
 人と違う容姿のせいでクラスで浮きがちだった僕が、結果がついてくるにつれ、クラスメイトに一目置かれるようになっていた。
 泣き虫で弱虫な自分を封じ込め、どんなことがあっても動じず笑顔で乗り越える、太一さんのような男になろうと、いつも笑顔を絶やさないようにした。
 そのうちに、ませた女の子から告白されることも増えたけど、興味は無かった。僕の努力は、ヒカリちゃんを守るためだけにあったから。
 ヒカリちゃんを守れる男になるため、僕の三年間はヒカリちゃんに捧げた。


 あの暗い海へ再び落ちたヒカリちゃんは、京さんというジョグレスパートナーを得て、現実世界へと帰ってきた。
 ――二度とあそこへは行かない。もう大丈夫。
 戻ってきたヒカリちゃんは、心配する僕へ向かって強い瞳でそう答えた。
 ヒカリちゃんが始めてあの海へ迷い込んだきっかけは、恐らく僕の一言だ。
 暗く沈んだ表情。いるはずのない人を求めてばかりで、目の前の僕を見ようとしない。ヒカリちゃんの瞳に映ることの出来ない苛立ちから、酷い言葉を投げかけた。
 守るべきヒカリちゃんを追い詰めたのは自分で、ヒカリちゃんを助けたのは僕以外の人物。
ヒカリちゃんが京さんと帰ってきたとき、良かったと思ったのは本心だ。僕以外の、同性の理解者がヒカリちゃんに出来たことは素直に喜ばしいと思った。
 だけど、僕は自分の存在意義がわからなくなってしまった。守るべき女の子を守れず、むしろ追い詰めて苦しめた自分。
 この三年間は一体何だったのだろうか? 僕は何のために存在しているのだろう?
 ヒカリちゃんを守るつもりが、そのことに依存していた自分に気づいて愕然とした。ヒカリちゃんがいなければ僕は空っぽだ。ヒカリちゃんに出会う前はどうしていたか。もう思い出すことも出来ない。
 ぼんやりと空を見上げながら歩く。
 この先、僕はどうしたらいいのか……


「ターケルくんっ」

 後ろから声が聞こえて、背負ったランドセルに軽く衝撃が走る。
 誰だかはすぐにわかる。

「ヒカリちゃん」

 振り向いて名前を呼ぶと、ヒカリちゃんはニッコリと笑った。

「ぼんやり歩いてるなんて珍しいね。どうしたの?」

 いつものように、ヒカリちゃんは自然に隣に並ぶ。今までと同じ。なのに、心はとても離れて、僕が追いつくことの出来ない遥か先にヒカリちゃんがいる気がする。

「ヒカリちゃんは楽しそうだね」

 明るい笑顔のヒカリちゃんに、そう素直に伝えるとヒカリちゃんはえへへと僕の前に回り込んだ。

「京さんとジョグレスしてからね、世界が違って見えるの! 京さん明るいから、一緒にいるとよく知ってるはずのものも新鮮なの!」

 ねぇ、ちょっと寄り道しようよとヒカリちゃんが手を引き、通学路脇にある公園へと連れて行かれる。ここは、あの暗い海へヒカリちゃんが消えたとき、僕が懸命に彼女を探した場所。
 よく晴れてキラキラと光る水面を背に、ヒカリちゃんがそれ以上に輝いた目で僕へ語りかける。

「ここね、最初にあの場所へ行ったあとは近づくのが怖かった。でもね、京さんと一緒に来て人が沢山いて、みんな楽しそうに過ごしていて、波はとても優しい音で……何一つ恐れるものは無いって教えてくれたの! だから、もう一人でも来れるようになった! 今日みたいな晴れた日は特に好き!」

 あぁ、やめてくれ。そんなに晴れ渡った笑顔で僕の知らない話をしないで。
 京さんとどう過ごしたか、ヒカリちゃんが楽しそうに話せば話すほど心が濁っていく。汚い心の内を悟られないよう笑顔を絶やせないせいで、ヒカリちゃんは僕の苦しみには気づかず、聞きたくもない話を続ける。
 お願いだ、もう……

「やめてくれ!」

 突然に発した大声に、ヒカリちゃんがビクリと肩を震わせる。
 ……今、自分は何を言ったのか。

「あ、あぁ……」

 壊れてしまう。ヒカリちゃんを守るためにあろうとした自分が、根本から全て。
 ヒカリちゃんを守ると決めた。僕だけが守れると信じていた。僕だけが彼女の……

「ごめん」

 ヒカリちゃんから背を向け、一目散に走り去る。
 崩れ落ちた笑顔の仮面は、再び被れそうになかった。