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デジモンタケヒカ二次小説
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cup 飴玉の思い出

2018.09.12 Wed

「ヒカリちゃん、口開けて」
「え?」

 僕の突然のお願いに振り向いたヒカリちゃんの半開きの口へと手に持っていたものを押し込むと、思っていたよりも抵抗無く口の中へとソレは消えていき、ヒカリちゃんはすぐにソレをコロコロと転がしながら声をあげた。

「なにこれ、飴?」
「正解」

 答えあわせにさっき破いたばかりの包装を広げて、ヒカリちゃんの目の高さへと持っていく。ヒカリちゃんは口の中に入っているものの正体を知って、目を丸くして顔をほころばせた。

「懐かしい。まだ売ってたのね」
「だよね。僕も見つけたとき懐かしくなってつい買っちゃったんだ」

 ヒカリちゃんの口に入れたのは、ヒカリちゃんと僕が出会った頃にヒカリちゃんが好きでよく舐めていた飴玉。ヒカリちゃんから何度も分けてもらって一緒に舐めたから、僕にとっても思い出の一品だ。

「途中で味が変わるのが凄く特別なことに思えて、これ大好きだったなぁ」

 ほっぺを飴玉の形で膨れさせながら、ヒカリちゃんは空の向こうを見つめる。
 そうだ。昔もこの飴を舐めるときは、こんなふうにどこか遠くを見つめていた。ヒカリちゃんの好きな物、ヒカリちゃんが見ている世界が知りたくて、母さんに頼んで一袋買ってもらい、一人で空を眺めて舐めていたこともある。
 思い出すには少し恥ずかしい、忘れていたはずの記憶。

「でも、こんなに小さかったのね。子供のときにはもっと大きな飴だと思ってた」

 ヒカリちゃんはとても楽しそうに僕を見て微笑む。そのほっぺの膨らみはもう最初と比べて随分小さくなってきた。

「僕たちも大人になったってことだよ」
「学校の帰り道に買い食いできるくらいにはね。……あ、味が変わってきた!」
「僕にも味見させて?」
「へ? ……ぅんっ!」

 ヒカリちゃんの顎を掴み、なかば無理矢理に唇を重ねる。顎を親指で押し広げ、強引に舌を滑り込ませて口の中で転がる飴玉を追った。
 飴玉はコロコロとヒカリちゃんの口内を自由自在に逃げ回り、捕まえたと思ってもするりと僕の舌から逃げていく。ヒカリちゃんの舌も同時に動くから容易には捕まえられない。
 不規則な動きをする飴玉を囲うように、あえて上顎や歯列の裏をなぞりながら追いかけて、飴玉が二人分の唾液で小さくなったころ、やっと僕の口へと収まった。

「甘いね。こんなに甘かったかな?」

 記憶の中の味と照合していると、飴玉のせいで長くなったキスにすっかり息があがったヒカリちゃんが、じろりと僕に咎めるような視線を投げた。

「自分の分、舐めればいいじゃない」
「味が変わった後のほうが好きなんだ」
「私だって変わった後のほうが好きなのに」

 むくれながら視線を外すヒカリちゃんに、今度は僕が目を丸くする。

「初めて聞いた」
「あれ? 言ってなかったっけ?」

 僕はそのことを知っていて当然と思っていたのか、初めて聞いたヒカリちゃんの秘密に驚く僕を見て、ヒカリちゃんも同じように驚きの表情を浮かべた。

「ずっと側にいるのに、お互いまだ知らないことがあるのね」

 突然発覚した新事実に、ヒカリちゃんは丸い目をしたまま何度も頷く。僕もかなり動揺しているけれど、それを悟られたくなくてヒカリちゃんの手を取り指を絡めた。

「これから知っていこう。もう知ってることも知らないことも、一つずつ丁寧に共有していこう」

 僕たちはこれからもずっと側にいるのだからと続けると、ヒカリちゃんは頬を染めて返事の代わりに僕の手を握り返した。

「まずは、この飴についてずっと言ってなかったことを曝露しようかな……」

 ヒカリちゃんが興味津々といった様子で僕を覗き込むから、そんな楽しい話じゃないけどと前置きして、ずっと隠していた僕の秘密を言葉に乗せた。


 
 ……この飴を美味しいと思ったことは実は一度も無いんだ。ヒカリちゃんが好きだから、好きなふりをしていただけ。でも、今日は初めて美味しいって思えた。

 それはきっと、君という隠し味が加わったから――――