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デジモンタケヒカ二次小説
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cup Annoying girlfriend

2018.09.06 Thu

 家に帰ってきて、勉強するからとすぐに部屋に閉じこもった。
 一応教科書は開いたけど何一つ手についてない。心がつらくて教科書の上に突っ伏せば、重力に負けて目から熱いものが溢れそうになる。
 ――こんなことで泣くなんて。
 タケルくんが転校してきて同じクラスになれたこと、本当に嬉しかった。だけど、身長も伸びて声変わりも始まったタケルくんは、クラスの女の子に大人気。
 成長してかっこよくなったタケルくんを知ってるのは私だけだった。タケルくんの優しさも勇敢さも、知っているのは私だけだったのに……。私だけの秘密を今ではみんな知っている。
 いつからタケルくんの事が好きだったんだろう。一緒にいるのが当たり前すぎて気づかなかった。気づいたときには遅かった。
 あんなことをした私をタケルくんは見限っただろう。クラスには、あの子をはじめ、タケルくんに可愛く笑いかける子なんて掃いて捨てるほどいる。いくら幼馴染で一緒に冒険した仲間だからって、あんなに酷いことした私をタケルくんが嫌いにならないはずがない。
 また泣けてきた。熱くなった目頭を手の甲でこすれば、ぎゅっと閉じた目から涙がこぼれ落ちる。一度流れたら、次々と溢れて止まらない。
こんなことで泣いてしまう弱い自分が悔しくて、何度も何度も目をこすった。

 ――ピンポーン

 来客を告げるチャイムがなる。自分には関係ないだろうと泣いたことで少し落ち着いた気持ちを宥めていると、お母さんの大きな声が聞こえた。

「ヒカリー! タケルくん来たわよー!」

 タケルくん? なんで? 私のこと嫌いになったんじゃないの? 嬉しい! でも苦しい! 今はタケルくんに会いたくない!

「いないって言って!」

 泣いていたことで少し掠れた声なのを悟られないように、出来る限り普通に返す。だけどそんな努力は全くの無駄だった。

「ヒカリ、タケルくんと喧嘩でもしたの?お母さん知らなかったからタケルくん通しちゃったわよ。……タケルくん、ごめんなさいね。ヒカリご機嫌斜めみたいで」

 近くで聞こえるお母さんの声に、さっと血の気が引く。
 私の返事待たずにタケルくん通しちゃったの? 今、お母さんの側にタケルくんがいる? ってことはさっきの私の言葉も聞いてた?
 最悪だ。本当に最悪だ。こんな自分が心底嫌になる。
 いますぐにでも消えてしまいたい、どこかに逃げられる場所はないか、とありもしない逃げ道を探していると、閉じたドアの向こうからタケルくんの声が聞こえてきた。

「ヒカリちゃんごめんね。僕、鈍くて……。ヒカリちゃんがなんで怒ってるのかすぐに気づけなかった」

 私、かなり理不尽な酷いこと言ったのに、タケルくんは私が怒ってた訳をずっと考えてくれてたの? 私のこと、嫌いになってないの?
 胸の奥から自然と喜びが湧き出て、私を満たしていく。タケルくんに会いたい。ドアの向こうでどんな顔をして話してるのか知りたい。
 ふらふらと引き寄せられるように部屋のドアへと向かいドアノブへと手をかけた瞬間、お兄ちゃんの呑気な声が届いた。

「ただいまー……っと、タケル来てたのか」
「お邪魔してます」
「ヒカリ、タケルくんと喧嘩したらしいのよ」
「喧嘩なんて……僕が全部悪いんです」
「よくわかんねーけど、ヒカリ!タケルのこと許してやれよ!」

 お兄ちゃんはほんとデリカシーが無い。
 このまま家にいたら、お兄ちゃんとお母さんが話の邪魔をしてくるだけだ。手鏡で酷い顔をしていないかを確認して、なんとか大丈夫そうだとドアを開けた。

「おっ、姫がやっと出てきたな」
「ヒカリちゃん、僕……」
「タケルくん、家だと邪魔が入るから外に行こ」
「なんだよ! 実の兄を邪魔者扱いかよ」

 ものすごく不服そうに言ってるけど、絶対に面白がりたいだけでしょ。顔に出てるよ。
 いーっとしかめっ面でお兄ちゃんに抗議して、タケルくんを連れて家を出た。
 そのまま近所の公園へ向かう。ブランコがあるだけの公園というには小さな場所だけど、あまり人も来ないからちょうどいい。
 やはり誰もいなかったから、なんとなくブランコに腰掛けて軽く地面を蹴る。
 家を出てからずっと無言の私達の間に、はじめてギィと小さな音が生まれた。

「ヒカリちゃん、ごめんね。ヒカリちゃんが怒ってる訳にすぐに気づけなかった」
「……へぇ。私が何に怒ってたのかわかるの?」

 タケルくんが来てくれたこと、本当に嬉しいのに、口から出る言葉は喧嘩腰。
 こんなふうにタケルくんに接したい訳じゃないのに。あの子のように笑顔で話しかけたいのに。素直になれない自分にイライラする。
 タケルくんは優しいけど、やっぱりこんな可愛げの無い女の子と一緒にいるのは嫌だろう。
 イライラした気持ちと一緒に、強く地面を蹴ってブランコを大きく揺らした。

「僕、嬉しかったんだ。転校して、ヒカリちゃんと同じクラスになれて本当に嬉しかった」
「そう」

 あぁ。今の言葉、あの子だったらとっても嬉しそうに笑って、私もとタケルくんに抱きつくかもしれない。どうして私は素直になれないの?素直に嬉しいって言えないの?
 気持ちと裏腹に口から出てしまう冷たい言葉に自分が嫌になる。
 全く素直になれない自分に自己嫌悪している私の横で、タケルくんがくすっと小さく笑った。

「何?」
「いや、ヒカリちゃん可愛いなと思って」

 可愛い? 素直さの欠片もない私が?
 意味不明な言葉に眉をしかめてタケルくんを見ると、タケルくんはニッコリ笑ってブランコを揺らす私の前に立った。ブランコの鎖を両方ともつかまれて、私はタケルくんの腕の中で見下ろされている。

「ヒカリちゃん、ヤキモチ焼いてくれてたんだよね」
「なっ!」

 突然図星をつかれて一気に顔が熱くなる。
 赤くなった顔を見られないように背けると、とても楽しそうにくすくす笑うタケルくんの笑い声が聞こえてくる。なんだか悔しくてタケルくんを睨むと、タケルくんはとても優しい目をして微笑んだ。

「イライラさせてごめんね。前の学校と同じようにしていただけなんだけど、ヒカリちゃんがどんな気持ちになるのか考えつかなかった」

 誰にも言ったことのない私の気持ち。どうしてタケルくんにはわかるの?
 不思議で信じられなくて、ぱちぱちと目を瞬かせてると、タケルくんが少し頬を染めた。

「僕は、ヒカリちゃんのことが好きだよ」

 うん。タケルくんは優しいから、こんな酷い態度をとった私のことも見捨てない。友達として、一緒に冒険した仲間として好きでいてくれる。

「私も、タケルくんのこと好きよ」

 ――友達として、そして男の子として。
 私とタケルくんの好きはちょっと違うけど、これで仲直りして、明日からまた元の関係に戻れるならそれでいい。

「ヒカリちゃん、意味わかってないよね」
「え?」
「僕の好きは、こういうこと!」

 タケルくんの勢いに後ろへと下がったブランコが、キィと微かな音を立て、私達を祝福した。



 こうして私達の世界は新しく生まれ変わった。
 そして、誰も見てないと思っていた私達の秘密は、通りすがりのクラスメートにばっちり見られていて、いつの間にか全校生徒が知っていたのだった。




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