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デジモンタケヒカ二次小説
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cup 海へドライブ

2018.08.16 Thu

「んー!」

 車から降りてすぐに、ヒカリちゃんは手を天にあげ大きく伸びをした。

「潮の匂いがするけど、お台場とは全然違うね。こっちのほうが海が生きてるって感じがする」

 ドアを閉めて近づく僕に、ヒカリちゃんが楽しそうに笑いかける。その美しい微笑みにつられて、僕の頬も自然と緩んだ。

「僕の運転どうだった?」
「お兄ちゃんより上手だったよ。免許とりたてだなんて信じられないくらい」

 よしっ! 太一さんより上手って褒められた!
 その場で小躍りしたくなるほど喜んでることをヒカリちゃんに悟られないように心の中で大きくガッツポーズをする。
 教習所では筋がいいって褒められたし、この日のために密かに練習もした。免許をとったことを聞きつけた兄貴が助手席に乗せろと何度もうるさく連絡してきたのを無視し続けて泣かれたけど関係ない。
 僕が初めて助手席に乗せる相手はずっと前から決めていた。

「長い時間クルマに乗ってて疲れたでしょ」
「そうでもないよ。タケルくんの運転上手だったし、それに……」
「それに?」
「ううん、なんでもない!」

 何かを言いかけたのに、首を軽く振って誤魔化す。

「ね、少し海辺を散歩しない?」

 話題を逸らされた気がしないでもないけど、せっかく海の綺麗なところまで来たのだ。ヒカリちゃんの提案に乗らない手はない。

「いいね! お昼までまだ時間もあるし」
「決まりね! じゃあ行こ?」

 ヒカリちゃんが昔のように僕に手を差し出す。それを取ろうと手を動かした瞬間、もう子供じゃないよねと恥ずかしそうにはにかみ、手を引っ込めた。
 ほんの少しだけヒカリちゃんへと伸ばした手は、行き場を無くして空を掴む。湧き上がる寂しさを肩を竦めて紛らわし、先を歩くヒカリちゃんを追いかけた。


 二人並んで海辺の遊歩道をのんびり歩く。
 押しては引く波の音が心地よい沈黙を演出し、柔らかく降り注ぐ春の陽射しが海に反射して輝く。
 少し暖かくなってきたとはいえ海風はまだ冷たさを残していて、それなりに有名な観光地だというのに人影はまばらだった。

「私たちってここにいる人たちにどう見えてるかな?」
「……こ、恋人じゃない?」

 思わぬことを聞かれたからちょっと上ずってしまったけど、間違ってはないと思う。年頃の男女が二人でいたら、他人はまず恋人同士と思うだろう。
 ヒカリちゃんには美味しい海鮮を食べに行こうとだけ言って誘ったけど、実はこの近くには恋人の聖地として有名なスポットもある。十中八九僕たちは恋人同士と思われてるはずだ。

「ふふっ。私たち友達なのに、他人には全然違う関係に見えてるなんて変なの」

 ……友達、ね…………
 ヒカリちゃんの言うとおり、僕たちは友達だ。出会ったときから何年も、ずっと仲のいい友達。
 時が経つにつれて少しずつ関係性も変わってきたけど、それでもどんな間柄かと聞かれたら、友達としか答えようが無い。
 関係性の名前を変えたいと思ったのはいつだったか。
 友達から恋人へと変わりたい。そう願ったときには、友達としてヒカリちゃんの側にいる事が空気のように当たり前になりすぎてて、関係を変えようとすることで今が壊れてしまうことが恐ろしくなった。
 一歩を踏み出しても大丈夫だろうかと、さり気なく恋人を匂わせてはヒカリちゃんの反応を確かめ、芳しくないことに落胆して先延ばしにすることをずっと繰り返してきた。
 今日も僕たちは友達だと強調されてしまった。まだ僕の気持ちは伝えられない。
 わかってはいたことだけど、ドライブデートをOKしてくれたことでちょっと期待もしてたんだ。
 ふぅと空にため息を吐き出すと、ヒカリちゃんが僕の顔を覗き込んだ。

「タケルくん、昔みたいに手を繋いでみない?」
「えぇっ!」
「だってここにいる人たちには私とタケルくんは恋人に見えるんでしょう? 手ぐらい繋いでても変じゃないよ」
「いや、でも……」
「恋人ごっこと言うことで」

 ヒカリちゃんが問答無用で戸惑う僕の手を取り握りしめ、恥ずかしさを誤魔化すように照れ笑いを浮かべた。
 僕よりも一回り小さく細い指をした手を握りつぶしてしまわないように、繋いだ指先に固く力が入る。緊張で手のひらに汗をかいてるかもしれない。
 昔はどうやって手を繋いでいたんだっけ。しょっちゅう手を繋いでいたはずなのにさっぱり思い出せない。

「これで私たちが友達だなんて思う人は誰もいないだろうね」

 恥ずかしそうに、でもいたずらっぽく笑うヒカリちゃん。繋いだ指先に少し力が込められたのがわかった。

「……この近くに恋人の聖地で有名なところがあるんだって。タケルくんに誘われてから調べたの。手を繋いだまま行ってみない? 手を繋いでいれば恋人に見えるし」

 言い訳を重ねるかのように、手を繋いでいれば恋人に見えるとヒカリちゃんは何度も繰り返す。

 ――僕はずっと一歩を踏み出すのが怖かった。今の関係が壊れるのが怖かった。
 でも、それは僕だけだったのか? 関係が壊れるのを恐れて小出しに匂わせ、気持ちを確かめていたのは僕だけだったのか?

「ヒカリちゃん! 僕はずっとキミのことが――」

 僕はもう踏み出すことを恐れない。今日から僕たちの関係を変えよう。
 新しい一歩を二人で一緒に踏み出して、ずっと共に歩いていこう。