speranza

デジモンタケヒカ二次小説
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cup bitter 1

2018.06.28 Thu
※ヒカリ→タケル、ヤマ空前提の ヒカリと太一の話です。






 ――置いてかないで!

 自分の叫び声に目を覚ますと、まだ闇に包まれた自分の部屋だった。
 ばくばくと心臓が鳴り、額には嫌な汗をかいている。もう一度眠るのが怖くてヒカリはベッドから起き上がった。
 暗いリビングを進み、キッチンへとたどり着く。一番近くにあったコップを手にとり蛇口から勢い良く水を注ぐと、水はあっという間に溢れてヒカリの手へとこぼれ落ちた。
 パジャマの袖が濡れたことに眉をしかめるでもなく、ヒカリはそのまま一気に水を喉に流し込む。喉を通るかすかな冷たさはすぐに言いしれぬ苦さにかわり、目からは涙が溢れてくる。すんと鼻を鳴らし、ヒカリは手で涙をぬぐった。
 先ほどまでみていた夢がどんなものだったのか。起きた瞬間に詳しいことは忘れてしまった。けれども、目を覚まさせた映像だけは覚えてる。
 金髪の幼馴染が、知らない誰かの肩に手をそえ、ヒカリを闇の中に置いたまま遠ざかっていくのだ。それまでヒカリを包んでいた金色の優しい光は彼のもので、彼が遠ざかるのと共に消えていく。
 いくら呼んでも振り返ってくれることはなく、ヒカリは力の限りに叫んだ。
 置いてかないで、と。

 じっとりとした嫌な汗はひくことなく、ヒカリの体にへばりついて離れない。いくら水を飲んでも喉の奥の苦さは増すばかりで、ぬぐったはずの涙がまた溢れてくる。

「うぅ……」

 抵抗してもしてもあらがえない苦しみに、ヒカリは声をあげずに泣いた。心の奥底から叫びたくなるような大きな痛みを癒やすにはもうそれしか方法が無かった。

「ヒカリ……?」
「お兄ちゃん……」

 異変を感じ取ったのか、夜中にも関わらず寝ぼけまなこをこすりながら太一が起きてリビングへとやってくる。
 一度叱られてから、いつも守ってきてくれた兄に甘えすぎないようにと昔に決意したはずなのに、ヒカリは矢も盾もたまらずに太一に抱きついた。
 最初は驚いた太一も、胸に顔を埋め声を殺して泣く妹の姿に察するものがあり、小さいころにあやしたようにヒカリの頭をぽんぽんとなでた。

「タケル、彼女できたんだってな……」
「うん……美人で評判の先輩」
「年上ってのがあいつらしいや」
「うん……。私ね、タケルくんのこと友達だと思ってた。親友だって。だからね、告白されたとき断ったの。友達のままでいたいって。なのに変だよね、タケルくんが彼女を作った途端、こんなにも苦しいなんて……」

 そうだなぁ…と悩むような声をあげ、太一はヒカリの頭を優しくなで続ける。兄の優しさが心に染みるようで、ヒカリは頬をすり寄せた。

「……気づいたときには遅かった。俺もおまえも。やっぱ兄妹だな!」

 にかっと、あの夏の冒険でみんなを安心させ奮い立たせた笑顔で太一は笑う。目の奥に悲しみの色が見えた気がして、ヒカリは目を伏せた。流れた涙はさっきまでとは違う悲しみを乗せていた。

「まぁ、おまえはまだ間に合うよ」
「そうかな……」
「あぁ。なんてったって、ヒカリより可愛いやつなんて見たことないからな!」

 必死で元気づけようとしてくれる太一の姿にふっと笑みがこぼれる。やっと笑顔をみせたヒカリの両頬をはさみ、太一は目を合わせた。

「いいか。諦めるんじゃねえ。ここから逆転だ!」
「うん……」
「タケルは案外しつこいやつだから、きっとまだヒカリに未練残してるはずだ!」
「そうかな……」
「俺を信じろ!」

 太一は笑う。みんなを照らす太陽のような笑顔で。お兄ちゃんは? と、口から出かかってヒカリは言葉を飲み込んだ。それを聞いてしまえば、この笑顔が曇ることはすぐにわかったから。

「ありがとう、お兄ちゃん」

 ヒカリは太一に抱きつき頬を寄せる。

「おまえは俺の自慢の妹だからな! 泣かせるやつはボッコボコにしてやる!」

 まずはタケルからだな!と肩を回す太一にヒカリは笑った。この人の妹に生まれて本当に良かったと思った。

「タケルはさ、俺の弟になりたいって昔言ってきたんだ」
「そうなの?」
「ヒカリが合流する前だけどな。あのときは適当に返事したけど、今だったら弟にしてもいいってタケルに伝えとけ!」
「それって……」
「そういうことだ」

 茶目っ気たっぷりに慣れないウィンクまでしてみせる太一を、ヒカリは驚きを隠せない丸い目で見つめる。

「タケルもすぐに意味がわかるだろうから、頑張れよ!」

 お兄ちゃん! と抱きつく腕に力を込めると、太一は少しだけ困ったように笑い、ヒカリの頭を撫でた。その優しさとぬくもりに、ヒカリは目を閉じ酔いしれた。

 もし、兄妹でなければこの人を好きになっただろう。そうしたら、兄が失恋に傷ついた心を癒せたかもしれない。けれども、兄妹として生まれたからこそ、兄の優しさを知り甘えることができるのだ。
 兄に頼ってばかりいるから駄目なんだと叱ってくれた人を好きになった。もうすぐ兄から自立しなくてはならないのかもしれない。でも今は、このまま甘えさせてほしい。こんな素敵な兄の妹として生まれられたのだから。



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