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デジモンタケヒカ二次小説
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cup The Phantom of the Opera 7

2018.06.15 Fri

 暗い通路の先を男が持つランタンの灯りが僅かに照らす。見えるのは自分の手を引く男の背とどこまでも広がる闇。
 ヒカリの胸は細かく鼓動を刻み唇は微かに震える。それは恐怖なのか期待なのか。
 熱に浮かされたように体はふわふわと漂い、ヒカリの足は本人の意思から離れて勝手に歩みを進める。
 捕まれた箇所から伝わる体温は氷のように冷たく、目の前の人物が本当に生きているのかどうかさえ定かではない。
 けれどもその力強さは、確かに現実なのだとヒカリに伝える。
 ヒカリは無意識のうちにアリアを口ずさんでいた。愛しい人への溢れんばかりの愛を歌詞にのせたアリアを。

「天使様……」

 天使を呼ぶヒカリの声は熱を多分に含み、漏れる吐息で男を誘う。
 返事の代わりに捕まれた手に力が込められ、ヒカリの華奢な手首に小さく痛みが走った。

「ずっと、あなたに逢いたかった」
「僕もだ……ずっと君を夢見ていた」

 短く返される男の言葉にヒカリの胸は高鳴り、理性は恋に覆い隠される。
 ずっと壁の向こうを夢見てきた。兄が遣わしてくれた音楽の天使に逢える日を夢見てきた。
 胸の鼓動は視界を狭め、ヒカリに見えるのはただ音楽の天使だけ。
 やがて大きな扉が表れ、ようやくヒカリから手を離した天使が扉を開け放つ。
 目に飛び込む巨大なパイプオルガンと楽器の数々。
 壁際に置かれたピアノが目に入り、あれがいつも自分を慰めてくれた音楽の源なのだと気づき、ヒカリは喜びに震えた。ここはずっと夢見てきた壁の向こう側。音楽の天使の住処なのだと。
 パイプオルガンがひとりでに演奏を始める。この曲は、先ほどヒカリが歌った愛の歌。

「歌って。僕のために」

 天使に促されるままに、ヒカリは歌いだす。彼へと偽りなき愛を伝えるために。
 男の手がヒカリを後ろから抱きしめ、穢れなき体を撫でる。
 耳元で促されるままにヒカリは歌い続ける。
 愛している。もう自分ではどうしようもないほど彼を愛してしまっているのだ。
 首筋を彼の舌が這う。全身がこれから起こることを期待して彼を求め疼く。
 もし闇の向こうに彼との楽園があるならばどこまでも堕ちていく。それが彼と共にいる条件ならば命だって惜しくはない。ヒカリの魂は、とっくの昔に彼に捕らえられ捧げられたのだ。
 今、この瞬間のために生まれてきた定めかのように、ヒカリは音楽の天使に全てを差し出す。
 彼の手はヒカリを一つの楽器のように演奏し、ヒカリの知らない音をいくつもたてる。
 歌声はやがて甘い嬌声となり、彼のためだけに紡がれる曲となり響きわたる。
 天使がヒカリをかき鳴らすほど大きくなる水音は、途絶えることのない嬌声との二重奏となり、二人を天国へと運ぶ。
 純潔を破る痛みすらヒカリに果てなき喜びを与え、心も体もヒカリの全てが音楽の天使へと堕ちていく。
 二人で奏でる曲はやがてクライマックスを迎え、ヒカリは意識を手放し深い眠りへと誘われた。

 ヒカリが気を失って初めて、タケルは仮面を外した。
 傍らで眠るヒカリの頬を撫で、その小さく色づく唇に口づけをする。
 二人が再会して初めてのキス。

「君は、僕のものだ」

 タケルは笑う。闇よりも深い闇をその端正な顔に映して。
 眠るヒカリにもう一度口づけると、タケルはそのまま意識のないヒカリの体を思う存分弄んだ。




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