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デジモンタケヒカ二次小説
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cup The Phantom of the Opera 4

2018.06.14 Thu

 オペラ座の幕があがる。
 ジョウが作曲したオペラの舞台は古代カルタゴ。ローマと戦い何度も苦しめた歴戦の将軍ハンニバル。彼の半生と愛の物語だ。
 前奏曲は彼の栄光を湛えるかのように荘厳なメロディで始まり、愛を表すバラードアレンジが挟まれ、妬みと裏切りの末の死を暗示するかのように不穏なものに変わっていく。
 このオペラは成功を収めるだろう。それも予想を遥かに上回る形で。
 開幕数分でタケルはそう判断し、執事のイオリを傍らに呼び必要な書類を持ってくるよう命じた。イオリが頭を下げ姿を消したので、タケルは舞台に視線を戻す。
 ハンニバルがローマとの戦いに勝利を収め、国中で彼の凱旋祝う中で、一人の女が物陰から彼を想い歌う。
 彼女の歌声が聞こえてきた瞬間、タケルは勢いよく立ち上がった。
 ボックス席の他の客が迷惑そうに一瞬だけタケルを見たが、すぐに新たなプリマドンナの歌声に酔いしれた。
 彼らは彼女があまりにも素晴らしい声なので驚きのあまり立ち上がったのだろうと勝手に納得して、それ以上タケルに注意を払うことは無かったので気がつかなかった。
 タケルの顔は暗がりでもわかるほど青ざめていたことを。

「ヒカリちゃん……」

 スポットライトを浴び、堂々と歌い上げる新しき歌姫。
 それは幼い頃の美しい思い出の中で生き続けているタケルの初恋の相手だった。
 共に遊んだのは随分昔のことで、お互いにとても幼かったが彼女を見間違えるはずは無い。とても美しい女性に成長したヒカリだが、面差しには共に笑いあった幼き頃を今も残している。
 血の気の失った顔でタケルは舞台で輝くヒカリを見つめ続けた。
 必要な書類を集めイオリが戻ってきたとき、タケルは瞬きも忘れるほど彼女を凝視していたことに気づき、一度首を振った。

「イオリ、僕は用を思い出したので帰る。支配人には約束通り支援すると伝えてくれ」
「はっ。御車の準備を致します」
「いや、それはいい。少し一人になりたい。後はソラに任せてくれればいい」
「かしこまりました」

 主人の意を汲みイオリが下がる。
 タケルがボックス席から出てすぐに、ソラが側に控え案内をする。
 オペラ座に棲む怪人のための席、通常のルートでは座ることの出来ない2階席5番ボックスへと繋がる秘密の通路へと。


 このオペラ座を作ったのはタケルの曽祖父だった。
 音楽を愛しロマンチストであった曽祖父は、彼の作ったオペラ座に怪人が棲むという物語を作った。
 2階席5番ボックスは怪人のための席であり、彼が身分を隠して自由に鑑賞するための席。
 ソラは、オペラ座が出来たときからこのオペラ座を管理している元イシダ家メイド頭の子孫であり、オペラ座で働く人間の中で唯一怪人の秘密を知っている。
 イオリもまた先祖代々イシダ家に仕える筆頭執事の家系で、オペラ座の怪人の真実を知っており、ソラに任せるの一言で主人の意を汲むことができた。
 事前に予想していたのか、ソラが見事に人払を済ませたロビーを進み、ボックス席へと通じる隠し扉の前までタケルを案内する。
この先にタケルと共に進むことはソラには許されていない。
 タケルは一言ソラに礼を言うと、隠し扉の中へと入り、ようやく完全に一人きりになったところで、その場に座り込み深くため息をついた。
 この場所から舞台は見えないが、歌声は届く。丁度ヒカリが思うようにならない切ない恋のアリアを歌っていた。
 耳に心地よく響き、穢れた心を洗うようなこの歌声はよく知っている。

「そうか、君が僕の天使だったんだね……」

 タケルの小さな呟きは、誰にも聞かれずに闇へと消えていった。





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