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デジモンタケヒカ二次小説
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cup 幸せの形

2019.01.14 Mon

 夢を見た。
 目が醒めた瞬間に、現実のように思ってたはずの世界は僅かな欠片を残して消えてしまい、どんな夢を見ていたのか詳しく思い出せない。
 ただ、とても悲しい夢だった。
 これでいいんだ。これが幸せなんだ。そう自分に言い聞かせて、心の願いと違う現実に幸せなフリをして笑う。そんな夢。
 ぼんやりとした頭で寝返りを打つと、眠る前には隣にいたはずの人の姿がなく、ベッドの上には自分一人だけ。

――先に起きたのかな。

 頭は冷静に状況を分析してるのに、なぜか視界が涙で滲んだ。

「あ、あれ?」

 両手で目をこすって、自分は何に泣いているのか考えるけど、理由がわからない。
 ただ、悲しみと不安がこみ上げる。
 抑えきれず、ついに涙がこぼれ落ちた瞬間、呑気な声が聞こえた。

「ヒカリちゃん、おはよう。朝ごはん作ったよ……って、泣いてるの?」

 慌てた様子で駆け寄ってくるタケルの姿がなんだかおかしくて、ヒカリは涙に濡れた目をこすりながらクスクスと笑った。

「おはよう、タケルくん」
「どうしたの? 昨日無茶しちゃったせいで、どこか痛む?」
「ううん」
「じゃあ、怖い夢でも見た?」
「うん。怖い夢、見た」

 心配してヒカリに目線を合わせるタケルに抱きつくと、タケルの手が背中に回り、肌の滑らかさを確かめるように、何も身につけていない背中を撫でる。
 昨夜の余韻を思い出させるような感触に、ヒカリは熱い息を吐き出し、タケルの耳元に唇を寄せた。

「詳しいことは覚えてないの。ただ、私は別の人と結婚して、これが幸せなんだって自分に言い聞かせてた」

 ヒカリの言葉に、タケルは目を丸くしてヒカリを見る。
 ただの夢と繰り返すヒカリを強く抱きしめ、タケルは首筋に顔を埋めた。

「今は? これが幸せだと自分に言い聞かせてる?」
「……ううん。言い聞かせなくても、心が知ってるの。これが本当の幸せだって」

 ふわりと微笑むと同時にタケルが首筋に噛み付く。
 自分を犯す甘い痛みに声をあげると、タケルはヒカリを押し倒しベッドに組み敷いた。

「朝ごはん、冷めちゃうよ?」
「結婚初日に別の男の夢を見られて、僕が平気でいられると思う?」
「ただの夢よ」
「夢でも嫌だ」

 むくれるタケルを見て楽しそうに響くヒカリの笑い声をキスで塞ぐ。
 溶け合うほどの長く深いキスのあと、ヒカリは晴れ渡る空のような青い目を覗き込んだ。

「私、今とても幸せ」
「僕は嫉妬で気が狂いそう」

 肩をすくめ、おどけた様子で言ってみせるけど、目は本気。
 夢にすら嫉妬するタケルにヒカリは笑い、目を閉じる。
 すぐに頭が真っ白になるような刺激が身体中を走り、タケルのこと以外何も考えられなくなった。



幸せに形があるのなら、きっと私の幸せはタケルくんの形をしているの。
どこかの誰かが決めた幸せの形よりも、ずっと素敵で私を満たしてくれる。
私だけの幸せの形はここにある――




cup “Maria”

2019.01.12 Sat

 夕日が、影を長く伸ばす。
 夜が近づいていることを知らせる赤い光が音までも飲み込んでしまったように、昼には賑やかだった校舎は静寂に包まれている。
 委員会の仕事を終え、ヒカリは自分の鞄を取りに教室に向かっていた。
 放課後遅い時間ということもあり、生徒の姿はほとんど無い。

 ――なんだか知らない場所みたい。実はよく似た異世界だと言われても信じてしまいそう。

 自身の突拍子も無い発想にクスリと笑い、空き教室に何気なく視線をやると、見知った金色の髪が目に入った。

「タケルくん、まだ帰ってなかったんだ」

 真剣な様子で手に持つ冊子を読む彼に、ヒカリは気さくに近づく。
 タケルは、ヒカリがすぐ側まで近づいてきてからやっと顔を上げた。

「ヒカリちゃんこそ遅いね?」
「委員会だったの。タケルくんは?」
「僕はコレ」

 表紙をヒカリに見えるように持ち上げる。
 コピー用紙を折りたたんだだけの冊子の表題を見て、ヒカリはあぁと納得した。

「文化祭の劇の練習してたのね。確か、主役だったよね」

 ヒカリの言葉にタケルは頷き、再び冊子に目を戻す。
 タケルの隣に座り、ヒカリも同じように台本を覗き込んだ。
 役名の下に括弧書きで文字が並んでいる。蛍光ペンで線が引かれてる箇所がタケルの台詞なのだろう。流石、主役。量も多い。

「大変だね」
「主役なんてやりたくなかったのにさ……。多数決ってときに残酷だね」
「私でも、同じクラスだったらタケルくんに投票してたと思うよ」

 肩をすくめるタケルの顔を覗きながら微笑むと、タケルは大きなため息をついた。

「同じクラスだったら、きっとヒロイン役はヒカリちゃんだったのに」
「まさか。私が選ばれるわけないよ」
「ヒカリちゃんは自分をわかってないなぁ……」

 探るようにこちらを見るタケルに、なんと返していいかわからず、ヒカリは曖昧な笑みを浮かべる。
 タケルはなにごとも無かったかのように台本をめくり、あるページを開いた。

「台本の読み合わせ付き合ってくれる?」
「いいよ。私はなんの役?」
「いや、聞いていてくれればいい。ここ、ヒロインに一目惚れした後の独白シーンなんだけど、長ゼリフが中々覚えられなくて……。今からそこやるから、台本と照らし合わせて間違ってないかチェックしてくれる?」
「わかった」

 台本を受け取ると、タケルは深呼吸をしたあとに朗々と台詞を紡ぎ出す。
 台詞に不安があるのが嘘に思えるほど、堂々とした演技。台本も一言一句間違えることはない。

――もう、タケルくんったら大袈裟なんだから。

 ヒカリは、少しの呆れとそれ以上の親しみを覚えながら、熱の入るタケルの声を聞き、台本を読む。
 ヒロインに一目惚れした主人公が、抑えられない胸のうちを吐き出し、彼女の全てを称賛するシーン。

「……それに、なんて美しい響きなのだろう。僕はこの世界にこんなにも美しい言葉があるとは知らなかった」



「ヒカリ」



 聞き間違えたかと思った一瞬の静寂のあと、タケルの台詞が続く。


「ヒカリ、ヒカリ、ヒカリ……。彼女の名前は特別な響きを持って僕を揺さぶる。大きな声で呼べば、この世で一番美しい音楽になり、小さく囁やけば天まで届く祈りの言葉になる。君の名前を口にするだけで、僕はこの上ない喜びに包まれる。ヒカリ。この世の全ての美しさが集まった言葉を、今日僕は知ってしまった。ヒカリ。これ以上美しい響きが他にあるだろうか。ヒカリ、ヒカリ……。僕はいつまでもこの美しい名前を呼び続けよう。ヒカリ。僕の最愛、僕の全て。ヒカリ……」


「どうだった?」 

 独白を終えて、タケルがいたずらな笑顔を浮かべる。

「……全然台本と違う」
「そう? やっぱり長ゼリフは覚えるの難しいな」

 ペロリと舌を出し、余裕を残す笑顔が憎らしい。
 全然台本と違う。
 台詞が、じゃない。ヒロインの名前だけ、きっちり間違えていた。
 この劇のヒロインの名前は「マリア」。決して「ヒカリ」ではない。

「どうしたの? 顔が真っ赤だよ」

 からかうタケルの声に、ヒカリは手に持つ台本で顔を隠す。

「夕日のせいだもんっ!」

 強がるヒカリに、タケルはクスクスと笑い、その手から台本を取り上げた。

「キスシーンもあるんだよね。フリだけど、上手くできるかどうかわからないから付き合ってくれる?」

 言葉では答えられず小さく頷くと、沈む太陽から二人の顔を台本で隠して、タケルの唇が重なった。




cup 2019姫始め

2019.01.01 Tue
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cup The Phantom of the Opera 13

2018.12.31 Mon

「よぉ!」

 オペラ座の舞台裏、背中から聞こえてきた呑気な声にミヤコは呆れ声で振り返った。

「なんか用?」

 視線の先にいたのは、予想通り国一番のテノール歌手ダイスケ。
 コーラスガールの一人でしかないミヤコとダイスケは、本来なら気安く名前を呼ぶ間柄ではないが、この二人は同じ町の出身で幼いときから共に育ってきた旧知の仲。
 今ではその地位に大きな差が開いてしまったが、お互いに着飾らない性格が昔のままの関係性を続けさせていた。

「お前にじゃねぇよ。この先に用があるんだよ」
「じゃあ、気安く呼び止めないでくれる? 私だって暇じゃないんだから」
「わりぃ、わりぃ」

 ミヤコのほうが先に産まれていることもあり、昔からダイスケに対するミヤコの扱いは雑だが、ダイスケの方も慣れたものでこれぐらいのぞんざいさは気にしない。
 これ見よがしにミヤコがため息をつくと、ダイスケは手を頭の後ろで組みニシシと笑った。

「この先に用って、この先には楽屋しかないわよ?」

 道を間違えて迷子にでもなっているんじゃないかと言いたげな、年上ぶるミヤコの様子に今度はダイスケがため息をついた。

「間違ってねぇよ! この先のヒカリちゃんの楽屋に用があるの!」
「あんたがヒカリちゃんに?」

 ミヤコは明らかに怪訝そうにダイスケを下から見上げ、たじろくダイスケの様子を見て、なるほどと手を打った。

「やめときなさいよ。あんたなんて相手にされないわよ。それに侯爵様と婚約が決まったのはあんただって知ってるでしょ。顔も地位もお金も全部揃ってる侯爵様とあんたとじゃ勝負にもならないわよ」

 無駄無駄と顔の前で手を振るミヤコに、ダイスケは一瞬ムッとした表情を浮かべたが、すぐに腰に手を当て得意げに胸を張った。

「ところがどっこい、ヒカリちゃんが好きなのは俺なんだよな」
「はぁ?」

 こいつはどこかで頭でも打ったのか。盛大に眉をしかめるミヤコに、ダイスケは得意げに続ける。

「ほら、お前も言ってただろ! ヒカリちゃんが俺の薔薇を大切に飾ってるって!」

 二人きりだと恥ずかしいからってディナーには行けてないけど、そんなに俺のことを好きなんて照れるよな。
 意味の分からない惚気を続けるダイスケの話を、ミヤコは話半分で聞き流しながらこいつは何を勘違いしているのだろうかと頭を回転させる。
 しばらく考えてようやく合点がいったミヤコは、延々と続く妄想の惚気話をすっぱりと中断させた。

「確かにヒカリちゃんが大切そうに薔薇を飾ってるとは言ったけど、それがあんたが贈った薔薇なんて一言も言ってないわよ」
「は?」
「それどころか、あんたがヒカリちゃんに薔薇を贈ったなんて今初めて聞いたわよ」
「へ?」
「ヒカリちゃんが大切に飾ってるのは、毎日ヒカリちゃんに届けられる一輪の薔薇のことよ。あんた毎日ヒカリちゃんに薔薇贈ってるの?」
「いや、俺は初日だけ……」
「ほらね。ヒカリちゃんが大切にしてるのはあんたの薔薇じゃない。あんたは脈無しよ。残念!」

 容赦なく畳みかけるミヤコに、ダイスケは肩を落とす。
 ようやくダイスケが勘違いに気づいたことに、ミヤコは大きく息を吐いた。

「さっきも言ったけど、ヒカリちゃんは侯爵様と婚約が決まって幸せ絶頂なの! 余計なことはするんじゃないわよ」

 侯爵様の逆鱗に触れたら、あんたと言えどもどうなるかわからないわよ。
 脅すミヤコにダイスケは情けない顔をあげる。

「……じゃあ、その薔薇は誰から来てたんだよ。その侯爵から来てたとでも言うのか?」

 失恋が決定的となったのに、ダイスケは諦めが悪い。ミヤコは肩をすくめて首を振った。

「さぁね。ヒカリちゃんは大切な人とだけ。でも、色も形も良くて高そうな薔薇だったし、侯爵様から来てたと考えても不思議じゃないわね」

 そうじゃなきゃ、身分差のある婚約がこんなにも早く決まるわけは無いだろうとミヤコは考えている。
 ヒカリは何も話さないが、誰も知らないところで二人は愛を深めていたのだろう。婚約という形でようやく秘密の恋が公になった。
 毎日ヒカリに贈られていた薔薇は、侯爵様からヒカリへの愛の証。だからこそ、ヒカリはあんなにも大切にしていたのだろう。
 根拠の無い予想に過ぎないが、そう大きく間違ってはいないはずだ。侯爵様がヒカリを深く愛しているのは間違いない。だから、自分にも……

「それに、ヒカリちゃんは今日は楽屋にいないわよ」
「はぁっ? そういうことは早く言えよ!」
「あんたが一人で妄想を始めるから、言う暇が無かったんでしょうが!」

 売り言葉に買い言葉。前日に千秋楽を迎えたオペラ座に人気は少なく、口喧嘩を始めた二人を止める人は誰もいない。お互いに肩で息をするぐらい疲れ果てるまで、不毛な言い合いは続いた。

「はぁ、はぁ……」
「ふぅ……。お前と一緒にいても碌なことが無い」
「それはこっちの台詞!」
「はぁ、このまま腐れ縁がずっと続くと思うとぞっとするぜ」

 二人の関係性を知らない人が聞けば、酷いと感じるかもしれないダイスケの言葉。
 ミヤコは全く気にすることなく、得意げに微笑んだ。

「お生憎さま! 私は今日でここを辞めるの。もうあんたと顔を合わせることもないかもね」
「はぁ?」

 ミヤコの爆弾発言に、ダイスケは今日一番の驚愕の表情を浮かべる。

「辞めるってお前……。ここ辞めてどうすんだよ? あてはあるのか?」

 ミヤコが結婚するという話を聞いたことは無いし、目の前の幼馴染からも、そんなめでたい雰囲気は微塵も感じられない。
 あんぐりと口を開けるしかないダイスケに対し、ミヤコはダイスケの虚をつけたことに満足して背を向けた。

「私には才能が無くてミミお姉さまのようにはなれなかったし、もう年もギリギリだから今回の公演で最後とは思ってたのよ。幸いにも、私に来て欲しいって打診があったから、そっちに行くことにしたわ」
「ミヤコ……」

 ダイスケは、ひらひらと手を振りながら立ち去っていくミヤコを呼び止めようとしたが、何も言葉が出てこなかった。
 この世界は華やかだが厳しい。実力が無い者がいつまでもしがみついて生きていける世界でないことは、ダイスケ自身もよく知っている。
 同じ町で生まれ育ち、同じ時期に同じ世界に足を踏み入れた戦友。辛いときも支え合って……とは言えないかもしれないが、相手が頑張っている姿を見て自分も頑張ることが出来た。
 同じ場所にいることが当たり前だった友との突然の別れに、ダイスケは拳を固く握りしめた。



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cup クリスマスイルミネーション

2018.12.24 Mon

「今日、一緒にイルミネーション見に行かない?」

 学校帰り、突然タケルくんに誘われた。

「イルミネーション? 夜に外出したら怒られるよ?」
「大丈夫だって。最近、五時にはもう真っ暗だし、その時間はまだ夜じゃない」
「うーん。まぁ、そうかなぁ……」

 あまり子供に厳しく無い親だけど、外が暗く前に帰ってきなさいってのがうちのルール。
 お兄ちゃんも同じだけど、あまり守ってはいない。
 少しぐらい、それこそ夕方の五時なら外出しても怒られないだろうけど、学校でもあまり暗いときに出歩くなって言われてるしなぁ。

「ヒカリちゃんの家のすぐ側のショッピングモール。そこなら暗い時間でも怒られないんじゃない?」
「そうだね。それなら大丈夫かも。でも、今更あそこのイルミネーション見たい?」

 こう言っては何だけど、近すぎて自分の部屋から毎日みてるし、毎年見てる。
 テレビで放送されてるような豪華なイルミネーションでもないし、それを見ることが楽しいだろうか?
 あまり乗り気でない雰囲気を出して返事をしたのにも関わらず、タケルくんは嬉しそうに微笑んだ。

「じゃあ、荷物置いたらヒカリちゃんを迎えに行くよ。遅くならないうちに帰すから、ご両親にもそう言っておいて」
「わかった」

 別れ際にも「約束だからねー!」と大声を出して念押しするタケルくんに、私は半分呆れて手を振り返したのだった。



 約束通り、タケルくんは荷物を置いたらすぐに迎えに来てくれた。
 ニコニコと嬉しそうなタケルくんに手を引かれ、家から徒歩三分も無いショッピングモールへと向かう。
 タケルくんがまず訪れたのは、私もよく来るアイスクリーム屋さんだった。

「ヒカリちゃん、奢るよ」
「いいの?」
「もちろん!」

 タケルくんの笑顔に遠慮しきれずに、奢ってもらう。
 食べたいものを一つに絞りきれず、クリスマス限定フレーバーとお気に入りの味をダブルで頼んで、タケルくんと分け合うことにした。
 店内スペースでタケルくんと一つのアイスをお互いのスプーンでつつきあう。
 おしゃべりを楽しみながら美味しく食べていると「あら、可愛いカップル」と通りすがりの人が呟いて去っていった。

「私たち、そんなんじゃないのにゴメンね」
「いいよ。クリスマスだから勘違いしても仕方ない」

 タケルくんは、全く気にする様子なく笑顔のまま。
 そっか、今日クリスマスだもんね。と返事をしたところで、今日がクリスマスだと改めて気づき、これって恋人同士のデートみたいと思って、顔が熱くなった。

「アイス食べ終わったら、海の方行ってみようか。もうすぐ暗くなるし」

 冬の間は、学校から帰って日が落ちるまでの時間は短い。だから先生たちも、寄り道するなと口を酸っぱくして言っている。
 ふとガラスの向こうを見れば、空は夕焼けに染まっている。
 アイスを食べ終わったあと、行こうかとタケルくんが手を差し出してくれたけど、デートみたいと気づいてしまった後では恥ずかしくて、その手を取れなかった。




「綺麗だね」

 海岸公園に降りて、イルミネーションで出来たツリーを見上げたタケルくんが洩らす。
 正直、イルミネーション自体は見慣れすぎてて感動はない。それよりも、イルミネーションを見上げるとタケルくんの横顔がいつもと違って見えて目が離せない。
 イルミネーションを見上げるタケルくんに魅入っていると、突然タケルくんがこちらを振り返り、慌てて顔を背けた。

「くしゅん!」

 顔を背けた瞬間にくしゃみが出た。
 最近寒いから防寒はしてきたつもりだけど、さっきアイスを食べたせいで体が冷えたのかもしれない。
 冷たい風がふいて、寒さにぶるりと体を震わせると、タケルくんが心配そうに私の顔を覗き込んだ。

「大丈夫? 寒くない?」
「う、うん! 大丈夫!」

 本当はちょっと寒いけど、強がって笑ってみせる。
 だけどタケルくんには通用しなかったようで、優しく微笑んで体の向きを変えた。

「そろそろ帰ろうか。イルミネーションは見れたし、遅くなる前に帰すって約束してるし」

 そういう約束だったと思い出した途端、寂しさが心を覆う。
 もう少しこのまま一緒にいたい。
 そう思ったけど、タケルくんは約束を守る人だから、聞いてはくれないだろう。

「そう、だね……」

 強がって微笑み返すと、タケルくんは私の手を取った。

「手が冷たいね。手袋は持ってこなかったの?」
「そこまでだと思ったから……」
「そっか」

 同じく素手のタケルくんの手も冷たい。
 タケルくんも寒いんだ。やっぱりもう帰らなきゃな。
 自分で自分に言い聞かせた瞬間、タケルくんは私の手を持ったまま、自分のポケットへと誘った。
 暖かいポケットの中で、タケルくんの手が繋ぎなおされる。恋人同士のように腕と指を絡めて。

「これで暖かいでしょ?」

 暗くてタケルくんの顔色は分からない。けれど、青い目はとても優しく見つめてくれる。

「うん。とっても暖かい」

 きっと表情に気持ちが隠しきれてない。だって、口元がにやけちゃってるのが自分でわかる。
 タケルくんには見えないように俯くと、繋いだ手をぐいっと引かれた。
 バランスを崩して寄りかかってしまい、重くないかなと慌ててタケルくんを見上げると、目があった途端、視線を逸らされる。

「寒いからさ、ヒカリちゃんの体温が暖かくて……」

 よく分からない言い訳に吹き出しそうになるのを堪えて、タケルくんに寄り添った。

「ホントだ。タケルくんの体温暖かいね」

 タケルくんのポケットの中で繋いだ手は、暖かさに汗をかいてる気がする。
 でもいい。冷たい空気よりも、タケルくんの体温のほうが心地よい。
 流石はクリスマス。何人もの大人のカップルとすれ違いながら、私たちはその誰よりもくっつきながら家に帰った。
 私の家まで近すぎることが、少し残念だった。




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